2013年8月6日火曜日

松原荘殺人未遂事件 その8

見舞いのリクエスト

 バアサンが刺された次の日の夕方、刺した佐藤(弟)が井の頭公園で捕まった。警察がわざわざ電話で教えてくれた。バアサンは全治3カ月で、命に別状はまったくないらしい。あばら骨が折れてたっぽかったし、血もふんだんに出ていたのに。廊下に落ちていた赤黒い小さなかたまりは内臓系ではなかったのか。
 夜になって、佐藤(兄)の部屋から思いきりナマった話し声が聞こえてきた。佐藤(兄)と話しているのは、かなりの確率で佐藤(父)。けっこう会話がはずんでいる。
 久しぶりの再会で盛り上がる父と子。ときどき笑い声が上がる。こんなときっつーのは、笑いでもしないと、ヤリきれんのかも。

 1カ月後、バアサンからハガキが届いた。

吉田さんへ
 代田橋の篠田外科病院に、
 入院しています。
 お見舞いにきてください。
             上田

 うわっ! 見舞いなんて苦手だ。何を話せばいいんだ? 礼儀とかに関する実用書を見たって、「ナイフで刺された知人を見舞うときの挨拶」なんて載ってないよ。なんだよ! どうすりゃいいんだよ! 何を話せばいいんだよ! すでに、見舞いに行くっていう前提でシタバタしているし、オレ。
 当然のことながら、田路のところにバアサンからのラブコールはなかった。ハガキを見せると、
「行かないだろ? 見舞いなんか」
 田路はあっさり言う。
「そうなるかな~」
 と言いながら、(ウワ~、田路、すげ、かっこいい)と心の中で田路を応援してしまった。

 1週間後にまたバアサンからハガキが来た。
 オレは、バアサンの吉田コールに屈してしまった。
 退院してから面倒くさいことを言われたりするのがイヤだったんだよ。
 でも、やっぱり行かなきゃよかった……。

つづく

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