最終回 ああ腹筋
うとうとしたり起きたりを繰り返しているうちに、薄明るくなってきた。座薬が劇的に効いたという実感はなかったが、手術箇所の痛みはピーク時の4割減くらいになっている。管折れ曲がり問題には相変わらず苦しめられていて、激痛ではないけれど、もういいかげんにしてほしい。泣きたくなってきた。
それでも結局、本格的に眠ったようで、気がついたら10時を過ぎていた。ありがたいことに、痛みはびっくりするくらい引いている。ただ、ウルトラマンの口のまわりがひりひりする。寝ている間にけっこう動いたみたいで、バンソーコーが3分の1くらいはがれていた。あちゃーと思いながら、もっとよく見ようと体を起こしかけたら、ズキューンと手術箇所に痛みが走って、一瞬息が止まった。これぞ脱腸手術後の筋肉の痛みだあ! くしゃみなんかしたら死ぬな。
午後イチに、ウルトラマンから管を抜いてもらった。「痛くはありませんが、ズサーっていうイヤな感じがします」っていう話だったから目をそらしていたら、なんてことなかった。見てればよかった。
この日は、テレビをつけようとしてはズキューン、寝返りを打とうとしてはズキューン、便所で小便を終えてウルトラマンを振ってはズキューンと、1日中懲りもせずに痛がっていた。
次の日、その次の日と、痛みはすこしずつ減っていったし、腹筋に負荷をかけない体の動かし方がつかめてきた。これなら予定どおり1週間ちょっとで退院できるなと思ったが、落とし穴が待っていた。
オレ、「10人にひとりかふたり」になってしまった。脊髄注射の副作用だか後遺症だかの偏頭痛が出ちゃったんだよ。上体を起こしたままでいると偏頭痛が始まるんだよね。20分程度なら起きていてもなんともないから、食事をしたり一服したりするのに不自由はないんだけどね。
入院費用がかさむのはイヤだけど、無理に退院して偏頭痛に一生つきまとわれるのはもっとイヤなので、よくなるまで病院でおとなしくしていることにした。そのとき仕事をしていた編集プロダクションに「1週間くらい退院が遅れるかも」って電話したら、入院前に入稿まで編集作業を進めていた交通事故の判例の本のゲラが送られてきた。ざっと校正して2、3日で送り返してくれだって。まあ、寝っころがっててもできるからいいんだけど。
ちなみにT先生によると偏頭痛の原因は、
「本当にお気の毒としかいいようがないです。これは想像ですが、体を起こすと、おそらく脊髄注射であいた穴から髄液がピョッと出るんでしょう」
ということらしい。髄液がピョッだなんて、あまり想像したくない。
偏頭痛は数日ほどでなくなった。入院から13日後の7月9日に退院することになり、外出許可をとって金をおろしに外に出た。めちゃめちゃ暑い。入院費用(手術代ほかもろもろ含む)の11万5000円(だいたいこれくらいだったと思う)とさしあたっての生活費2万円をおろしたら、預金残高は16万円ちょっとになってしまった。2カ月後には、交通事故の本を編集したギャラが入ってくるからなんとかなるか。
退院して10日後くらいに銀行のCDコーナーで金をおろしたら、20万円振り込まれていた。オフクロだ。金に困ったら、今度はどこを手術しようか。
手術後、最低でも1年、できれば1年半くらいは筋肉トレーニングなんかの激しい運動はやめといたほうがいいと言われていたので、当時よく行ってたキャンプもガマンしておとなしくしていた。
1年半経ってから筋トレを始めた。
腕立てやスクワットは別に問題ないけれど、腹筋運動はさすがに慎重になる。
あおむけに寝て、せっかく手術した脱腸がまた出たりしないように、左の脚の付け根を手で押さえながら腹筋運動を始めた。
1か~い、2か~い、3か~ボグっ!
……あちゃー。
前略 おふくろ様
今度は右です。信じてくれますか?
うとうとしたり起きたりを繰り返しているうちに、薄明るくなってきた。座薬が劇的に効いたという実感はなかったが、手術箇所の痛みはピーク時の4割減くらいになっている。管折れ曲がり問題には相変わらず苦しめられていて、激痛ではないけれど、もういいかげんにしてほしい。泣きたくなってきた。
それでも結局、本格的に眠ったようで、気がついたら10時を過ぎていた。ありがたいことに、痛みはびっくりするくらい引いている。ただ、ウルトラマンの口のまわりがひりひりする。寝ている間にけっこう動いたみたいで、バンソーコーが3分の1くらいはがれていた。あちゃーと思いながら、もっとよく見ようと体を起こしかけたら、ズキューンと手術箇所に痛みが走って、一瞬息が止まった。これぞ脱腸手術後の筋肉の痛みだあ! くしゃみなんかしたら死ぬな。
午後イチに、ウルトラマンから管を抜いてもらった。「痛くはありませんが、ズサーっていうイヤな感じがします」っていう話だったから目をそらしていたら、なんてことなかった。見てればよかった。
この日は、テレビをつけようとしてはズキューン、寝返りを打とうとしてはズキューン、便所で小便を終えてウルトラマンを振ってはズキューンと、1日中懲りもせずに痛がっていた。
次の日、その次の日と、痛みはすこしずつ減っていったし、腹筋に負荷をかけない体の動かし方がつかめてきた。これなら予定どおり1週間ちょっとで退院できるなと思ったが、落とし穴が待っていた。
オレ、「10人にひとりかふたり」になってしまった。脊髄注射の副作用だか後遺症だかの偏頭痛が出ちゃったんだよ。上体を起こしたままでいると偏頭痛が始まるんだよね。20分程度なら起きていてもなんともないから、食事をしたり一服したりするのに不自由はないんだけどね。
入院費用がかさむのはイヤだけど、無理に退院して偏頭痛に一生つきまとわれるのはもっとイヤなので、よくなるまで病院でおとなしくしていることにした。そのとき仕事をしていた編集プロダクションに「1週間くらい退院が遅れるかも」って電話したら、入院前に入稿まで編集作業を進めていた交通事故の判例の本のゲラが送られてきた。ざっと校正して2、3日で送り返してくれだって。まあ、寝っころがっててもできるからいいんだけど。
ちなみにT先生によると偏頭痛の原因は、
「本当にお気の毒としかいいようがないです。これは想像ですが、体を起こすと、おそらく脊髄注射であいた穴から髄液がピョッと出るんでしょう」
ということらしい。髄液がピョッだなんて、あまり想像したくない。
偏頭痛は数日ほどでなくなった。入院から13日後の7月9日に退院することになり、外出許可をとって金をおろしに外に出た。めちゃめちゃ暑い。入院費用(手術代ほかもろもろ含む)の11万5000円(だいたいこれくらいだったと思う)とさしあたっての生活費2万円をおろしたら、預金残高は16万円ちょっとになってしまった。2カ月後には、交通事故の本を編集したギャラが入ってくるからなんとかなるか。
退院して10日後くらいに銀行のCDコーナーで金をおろしたら、20万円振り込まれていた。オフクロだ。金に困ったら、今度はどこを手術しようか。
△ △ △
手術後、最低でも1年、できれば1年半くらいは筋肉トレーニングなんかの激しい運動はやめといたほうがいいと言われていたので、当時よく行ってたキャンプもガマンしておとなしくしていた。
1年半経ってから筋トレを始めた。
腕立てやスクワットは別に問題ないけれど、腹筋運動はさすがに慎重になる。
あおむけに寝て、せっかく手術した脱腸がまた出たりしないように、左の脚の付け根を手で押さえながら腹筋運動を始めた。
1か~い、2か~い、3か~ボグっ!
……あちゃー。
前略 おふくろ様
今度は右です。信じてくれますか?
一応完
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