これが噂のインフォームドコンセント
しばらくして担当医のT先生がニコニコしながら現れ、どんな手術をするのか説明し始めた。
「ここにですね、左右2つずつ穴があいていて、これは誰でもあいているんですけどね、普通はこの穴を腹筋がふさいでいるんですが、腹筋が弱くなったり、穴の上からずれたりすると、腹膜がチョロっと出てしまうんですね」
T先生は、股間のあたりの図を描いて説明してくれる。チンコも省略せずに描く。几帳面な性格なのか、病院の決まりでチンコを描くことになっているのかはわからない。患者が女の人の場合はどうするのだろう。
「その状態で腹圧がかかると、そこに腸が出てしまうんですよね。ですから手術では、腸をお腹の中に戻して、でも、腹膜はもう戻りませんから、出ている部分を糸でしばって、そうするとこの出ている部分は自然に体に吸収されてなくなってしまいます。そして、こっちの筋肉とこっちの筋肉を引っ張ってきて穴をふさぎます。このとき筋肉を糸でぐるぐる縛って固定しますから、麻酔が切れると相当痛むと思います」
「ああ、痛いんですか……」
「はい。そのときは看護婦を呼んでいただければ、痛み止めの方法はありますから、そんなにご心配なさることはないですよ。それから、退院してもしばらくはお腹に力を入れないようにしないと、痛みがあります。たとえば咳やくしゃみなんかをするとかなり痛みます」
「ああ、しばらくは痛いんですか……」
「はい。手術にはほかの方法もありますが、吉田さんくらい若いと、この方法がやっぱり確実なんですよね」
「あまり若くもないですけど……」
「若いです。年齢を召された方だと、筋肉が対応してくれないんですよ。吉田さんくらいの年齢でしたら問題なく筋肉が元どおりになりますから」
「そうですか……」
「これで手術は終わりです。あとは、お腹の傷口を縫うだけです。縫う方法としては、あとで抜糸が必要な糸を使う場合と、溶けてなくなる糸を使う場合がありますが、傷口は3センチほどですし、目立たない場所ですから、今回は、あとで抜糸する糸を使います」
「それじゃ、傷痕は残るんですか」
「いえ、いずれはきれいになりますよ。ただ抜糸が必要かそうでないかの違いだけと考えていただければいいと思います。それに、抜糸自体も簡単ですから」
「わかりました」
「それとですね、麻酔は脊髄注射を行います。胸から下が足先まで感覚がなくなりますが、意識はありますから手術室の様子も見えますしお話もできます」
「えっ、切ってるところが見えるんですか?」
「胸のところに布を置いて隠しますから、首を持ち上げたくらいでは見えませんが、どうしても見たいとおっしゃるなら、見えるようにしましょうか?」
「いや、それは、け、けっこうですけど」
「あと、手術の前には、下剤と浣腸でお腹の中を空っぽにしていただくのと、手術時にはオチンチン(※この言葉、このあとたびたび登場して、人によっては下品と感じるかもしれないので、以後「ウルトラマン」と表記します)の先からですね、膀胱まで管を入れて、これくらい(フリーザーパックのLくらい)のビニールの袋に尿をとります。万が一手術のときに尿が出たら面倒ですし、人によってはショック症状があって、麻酔がさめても一時的に尿をコントロールできなくなる場合がありますのでね。何も問題がなければ、次の日には抜いてしまいますから、そんなに面倒な思いはしないでしょう」
脊髄麻酔を打って手術するときはウルトラマンに管を入れるってことを、たぶん、とんねるずの貴明がテレビ言っていた。「こんなに長く入れるんだぜ」って。その長さにはビビったが、痛さに関して貴明は何にも言ってなかった。
「これは、可能性は低いんですが、脊髄注射の副作用というか、なかには、手術後何日かたって偏頭痛が出る方がいらっしゃるんですよね」
うわっ、ウルトラマンに管入れるよりよっぽどイヤだ。
「体を起こしたままで何十分かすると頭痛がするんですね。そうなるともう、寝ているしかなくて。無理に起きて退院してしまったりすると、一生偏頭痛に悩まされることになりますので、しばらく安静にすることをおすすめします。そうなると退院まで、ちょっと時間がかかることになりますね。まあ、10人にひとりかふたりというところですので、まず大丈夫だとは思います」
基本的にオレはいつも多数派に属していて、少数の選ばれし人間になったことはないので、そんなことにはならないだろう。
「それじゃ、今日金曜日と明日土曜日は特にこれといってすることもないので、ゆっくりしてらしてください。それで、手術前日の日曜日になったら剃毛していだきます」
日曜日からは、つるつるだ。
「それから、夜、寝る前に下剤を飲んでいただいて、それ以降は飲食しないでください。月曜日、手術当日は朝早く浣腸をして、お昼前から点滴を開始します。これで喉の渇きは感じないはずですから。で、手術の時間によって多少前後しますけど、4時くらいには脊髄注射をします。それでいよいよ手術本番という段取りですね。もしわからないこととか不安なことがあったら、いつでもどんなことでもかまいませんから、看護婦に聞いてください。看護婦にわからないことは私のところにきますから、きちんとお答えします」
「わかりました。よろしくお願いします」
T先生の話はていねいでわかりやすかった。けど、笑えるネタはなかった。長々と読んでもらってゴメンね。
しばらくして担当医のT先生がニコニコしながら現れ、どんな手術をするのか説明し始めた。
「ここにですね、左右2つずつ穴があいていて、これは誰でもあいているんですけどね、普通はこの穴を腹筋がふさいでいるんですが、腹筋が弱くなったり、穴の上からずれたりすると、腹膜がチョロっと出てしまうんですね」
T先生は、股間のあたりの図を描いて説明してくれる。チンコも省略せずに描く。几帳面な性格なのか、病院の決まりでチンコを描くことになっているのかはわからない。患者が女の人の場合はどうするのだろう。
「その状態で腹圧がかかると、そこに腸が出てしまうんですよね。ですから手術では、腸をお腹の中に戻して、でも、腹膜はもう戻りませんから、出ている部分を糸でしばって、そうするとこの出ている部分は自然に体に吸収されてなくなってしまいます。そして、こっちの筋肉とこっちの筋肉を引っ張ってきて穴をふさぎます。このとき筋肉を糸でぐるぐる縛って固定しますから、麻酔が切れると相当痛むと思います」
「ああ、痛いんですか……」
「はい。そのときは看護婦を呼んでいただければ、痛み止めの方法はありますから、そんなにご心配なさることはないですよ。それから、退院してもしばらくはお腹に力を入れないようにしないと、痛みがあります。たとえば咳やくしゃみなんかをするとかなり痛みます」
「ああ、しばらくは痛いんですか……」
「はい。手術にはほかの方法もありますが、吉田さんくらい若いと、この方法がやっぱり確実なんですよね」
「あまり若くもないですけど……」
「若いです。年齢を召された方だと、筋肉が対応してくれないんですよ。吉田さんくらいの年齢でしたら問題なく筋肉が元どおりになりますから」
「そうですか……」
「これで手術は終わりです。あとは、お腹の傷口を縫うだけです。縫う方法としては、あとで抜糸が必要な糸を使う場合と、溶けてなくなる糸を使う場合がありますが、傷口は3センチほどですし、目立たない場所ですから、今回は、あとで抜糸する糸を使います」
「それじゃ、傷痕は残るんですか」
「いえ、いずれはきれいになりますよ。ただ抜糸が必要かそうでないかの違いだけと考えていただければいいと思います。それに、抜糸自体も簡単ですから」
「わかりました」
「それとですね、麻酔は脊髄注射を行います。胸から下が足先まで感覚がなくなりますが、意識はありますから手術室の様子も見えますしお話もできます」
「えっ、切ってるところが見えるんですか?」
「胸のところに布を置いて隠しますから、首を持ち上げたくらいでは見えませんが、どうしても見たいとおっしゃるなら、見えるようにしましょうか?」
「いや、それは、け、けっこうですけど」
「あと、手術の前には、下剤と浣腸でお腹の中を空っぽにしていただくのと、手術時にはオチンチン(※この言葉、このあとたびたび登場して、人によっては下品と感じるかもしれないので、以後「ウルトラマン」と表記します)の先からですね、膀胱まで管を入れて、これくらい(フリーザーパックのLくらい)のビニールの袋に尿をとります。万が一手術のときに尿が出たら面倒ですし、人によってはショック症状があって、麻酔がさめても一時的に尿をコントロールできなくなる場合がありますのでね。何も問題がなければ、次の日には抜いてしまいますから、そんなに面倒な思いはしないでしょう」
脊髄麻酔を打って手術するときはウルトラマンに管を入れるってことを、たぶん、とんねるずの貴明がテレビ言っていた。「こんなに長く入れるんだぜ」って。その長さにはビビったが、痛さに関して貴明は何にも言ってなかった。
「これは、可能性は低いんですが、脊髄注射の副作用というか、なかには、手術後何日かたって偏頭痛が出る方がいらっしゃるんですよね」
うわっ、ウルトラマンに管入れるよりよっぽどイヤだ。
「体を起こしたままで何十分かすると頭痛がするんですね。そうなるともう、寝ているしかなくて。無理に起きて退院してしまったりすると、一生偏頭痛に悩まされることになりますので、しばらく安静にすることをおすすめします。そうなると退院まで、ちょっと時間がかかることになりますね。まあ、10人にひとりかふたりというところですので、まず大丈夫だとは思います」
基本的にオレはいつも多数派に属していて、少数の選ばれし人間になったことはないので、そんなことにはならないだろう。
「それじゃ、今日金曜日と明日土曜日は特にこれといってすることもないので、ゆっくりしてらしてください。それで、手術前日の日曜日になったら剃毛していだきます」
日曜日からは、つるつるだ。
「それから、夜、寝る前に下剤を飲んでいただいて、それ以降は飲食しないでください。月曜日、手術当日は朝早く浣腸をして、お昼前から点滴を開始します。これで喉の渇きは感じないはずですから。で、手術の時間によって多少前後しますけど、4時くらいには脊髄注射をします。それでいよいよ手術本番という段取りですね。もしわからないこととか不安なことがあったら、いつでもどんなことでもかまいませんから、看護婦に聞いてください。看護婦にわからないことは私のところにきますから、きちんとお答えします」
「わかりました。よろしくお願いします」
T先生の話はていねいでわかりやすかった。けど、笑えるネタはなかった。長々と読んでもらってゴメンね。
つづく
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