2013年4月9日火曜日

脱腸手術入院マニュアル その7

1998年の剃毛とウルトラマン問題

 日曜日。剃毛の朝が来た。剃毛の朝食を食べ、剃毛の午前中を過ごし、剃毛の昼食を摂る。
 午後3時、剃毛看護婦が呼びに来た。いよいよだ。
 ナースセンターの隣の処置室(準備室だったかも)に案内される。カーテンで仕切られたスペースにベッドが置いてある。カーテンの隙間から、すぐそこに別の看護婦と患者がいるのが見える。これから剃毛されるにしては、かなり無防備な状況だ。
 ベッドに掛けるように言われたのでパンツを下ろそうとしたら、「あっ、まだけっこうですよ。準備がありますから」と看護婦は苦笑いして出て行った。なんか、やる気まんまんだと思われたみたいだ。
 それから20分くらい待たされる。カミソリとシャボンの準備にそんなに時間かかるか? オレの心の準備のためにくれた20分だとしたら長すぎる。そんなにいらない。頭を冷やせということか。別に興奮なんかしてないってば。
「すみません、お待たせしました」
 看護婦はシャボンと高そうなカミソリ3本とタオルを何枚か手にしている。
 オレはベッドに横になり、心を静めるように軽く深呼吸した。看護婦はオレよりちょっと若いくらいで、ありがたいことに、見た目だけで勝負するタイプではなかった。たぶん、邪念は起こさずにすむだろう。
 看護婦がパンツを少しずり下ろし(オレのパンツね。看護婦のパンツではない)、まずは腹の毛から剃る。シャボンを塗り、ヘソあたりから下をシャッシャッと剃る。もちろん、オレの心は平静だ。さらにパンツを、うつ伏せに寝ているウルトラマンの根元というか足元まで下げる。超ローライズだ。そのローライズパンツの上にタオルを乗せる。
 これならパンツにシャボンが付くこともない。
 先ほどまでのシャッシャッという音(腹毛を剃る音)が、ズっ、ズリ、ゾリーー、ジョレに変わった。本格的剃毛の開始だ。
 つるつるすべすべの範囲がみるみる広くなっていく。
 こんなつるつるすべすべ卵肌はいつ以来だろう。
 ウルトラマンの足元ぎりぎりまで、タオルでおおっていない部分がつるつるになった。タオルの下はまだぼうぼうだ。夏になるとオフクロがノースリーブからはみ出た部分のワキ毛だけ剃っていたことが懐かしく思い出される。
 さてこのあとはどうなるのかと思っていたら、「パンツだけヒザまで下ろしますね」。
 パンツだけ?
 看護婦はタオルを押さえながらうまくパンツだけをずらしてヒザのところまで下ろしてしまった。ウルトラマンの上にはタオルだけ。次にどんな攻撃を繰り出してくるのかと身構えたら、「太ももを剃りますね」。
 なるほど。そっちは盲点だった。というか、そこも剃るって言われたことをすっかり忘れていた。
 ヒザ上20センチあたりから剃り始め、上へ上へとカミソリは移動する(途中で、カミソリは2本目へとチェンジ)。このままいったらタオルをずり上げなきゃいけない。そうなると……ウルトラマンも、彼に劣らず大事なところもアラワに……と思ったら、看護婦はタオルをハイレグ状にすることで、難しい局面を打開した。
 いくらタオルがハイレグ状になったとはいえ、隠れていて剃り残している部分はまだある。  もうウルトラマンは逃げも隠れもできない。
 でもオレは大丈夫だ! と自分に言い聞かせる。
 だが、看護婦が「失礼します」と言いながら、うつ伏せに寝ているウルトラマンをタオルごと横倒しにしてカミソリを動かし始めたとたん、ウルトラの父(オレのこと)は動揺した。それを敏感に察知したらしく、ウルトラマンが今にも眠りからさめそうになる。「彼に劣らず大事なところ」(※キンタマのこと)は当然のような顔をして、すでにタオルからはみ出している。さっきまで慎重に、はみ出さないようにしてくれてたのは何だったんだ。
 片側を剃り終えた看護婦は、今度はウルトラマンを逆側へと横倒しにした。ウルトラの父は頭の中で九九を唱え、邪念を追い払おうとする。
 だがウルトラの父はカミソリがまだ2本目であることに気づいてしまった。
(左右を剃り終えて、残った3本目のカミソリでどこを剃るかっていったら、ウルトラマンを上方向にのけぞらせてキンタ……)
 とうっかり考えてしまった。してはいけない想像をしてしまった。みだらな夢を見てしまった。
 まずい! このままではウルトラマンが巨大化してしまう。
 いつもなら巨大化して地球のピンチを救っているウルトラマンだが、今、巨大化されたらウルトラの父の大ピンチだ。

つづく

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