はじめに
FC2ブログ版『馬鹿の手帳』の「東京ドメスティック」というカテゴリーに2009年7月25日から2009年11月28日にかけてアップしたネタ。小説みたいなタイトルだけど、ノンフィクションです。
四畳半に雨が降る
雨が空から降れば、雨水が屋根から天井に落ちる。それが木造アパートの2階だ。
30年住んでいる今のアパートも、もちろん雨漏りする。雨が降ると天井に水滴の落ちる音がして、その部分が濡れてシミになる。雨漏りは通常1か所でおさまるが、長雨が続いたり大降りになったりすると3か所に増え、天井からポタポタと部屋の中に落ちることもある。そこに雨受けの洗面器を置く。相当の大雨でも、洗面器の底にちょっと溜まる程度だが、ネズミやゴキブリのフン、ホコリなどが積もる天井を伝った水なので、ちょっと茶色っぽい。おえ。
今から30年以上前、1978年1月から約3年間住んだ明大前の松原荘の雨漏りは激しかった。
雨が降り始めると、まず天井の2か所くらいから雨音が聞こえてくる。そのうち天井の数か所で音がするようになり、天井のいつもの1か所に水玉がぶら下がる。雨が降り続けばこの水玉は落下するが、雨がやんだり小降りになったりすれば水玉はへばりついただけでポタリとは落ちない。というか、屋根から天井に水滴が落ちた衝撃でへばりついた水玉は霧となり、その下で天井を見上げるオレの顔に降り注ぐわけなんだけど。
大雨の日には、雨漏りの個所が増える。天井の決まった箇所からそのまま落下する雨漏りは、その下に雨受け容器を置けばいいので問題ない。面倒なのは、A地点で天井から顔を出した水滴がその場では落ちず、天井をツツーと伝って数十センチ離れたB地点で床に落下するケースだ。降り始めのうちはAからBへと天井を横に移動したのちに床へと落下していた雨漏りは、雨量が増えるとA―B間の任意の地点からポタポタと落下し始める。オレは、床がびしょびしょになるのがイヤなので、A地点の下からB地点の下まで器を一直線に並べて対応する。
これで問題解決かというと、そうはいかない。夜寝るときにオレの頭を置くベストポジションが、B地点の真下なのだ。
頭を高くして寝たいし、朝日に眠りを邪魔されたくないという条件を考慮すると、どうしてもB地点の下に頭がくるようなポジションで寝ることになる。
頭を低くして寝ると最初は気持ち悪いだろうが、そのうち慣れる。でも、そうなると、必然的に頭は出入り口に近くなる。出入り口の板の間はイコールキッチンスペースであり、ゴキブリの世界。
21世紀の東京において、室内に生息するゴキブリは小型が主流であり、デカくて黒いゴキブリは基本的に屋外に住んでいる。だが30年前の東京のアパートは各種ゴキブリがうごめくゴキブリックパークだった。夜、ラジオを消し電灯も消して寝ようとすると、カサコソカサコソ(移動音)、チュルチュルジュルジュル(すすり音)、バキバキガリガリ(齧り音)と恐怖のサウンドがすぐ近くで鳴り響く。だからB地点に頭を置きたいのだ。
ある晴れた日、来るべき梅雨に備えて、A―B地点の線状の雨漏りに対するゾーンディフェンスを敷くことにした。天井に、四角いゴミ収集袋の四つ角をガムテで固定するってだけのことなんだけどさ。
テキトーに張った天井のゴミ収集袋は、ふんわりした感じだった。夜、寝る前に、「これで、雨の日でも寝るときに頭の向きを変えずに済む」と考え、満足した。
何日かたって、雨が降った。
天井から雨水がゴミ収集袋にポタ……ポタ……ポタ……ポタと落ち始めた。
砕け散った雨水がゴミ収集袋に線状に並んでいるのが透けて見える。
ばっちりだぜい。
ところが。
はじめのうち独立していた雨水たちは、そのうち結びつき、ゴミ収集袋の中心に集まりだした。
時間がたつにつれ、中心の雨水の量が増えていく。
天井に張り付けたときにはフワっとしていたゴミ収集袋が、ピーンと張っている。
こ~わい。
そのうち水の量がラーメン丼の半分くらいになった。たぶん1リットル弱くらい。
このままでは、四つ角に張り付けたガムテがはがれてしまう。
オレはガムテを補強した。
そして、もちろん考えた。水の量が丼1杯分に増える→さらにガムテで補強する→丼2杯分になる→これでもかってほどガムテだらけにする→丼4杯分に……なんてイタチごっこは、いつまでも続かない、ガムテでいくら角を補強したって、いずれ、ゴミ袋から水があふれ出るときがくるだろう、と。
ある程度溜まったら、水を抜かなきゃいけない。水量が少ないうちに、いっぺん試しておくことにした。
水を抜くのは、4辺のうちの、部屋の中央側の1辺。
右手で洗面器を構え、左手に持った傘の柄でゴミ収集袋の真ん中をゆっくり持ち上げる。
うわっ、洗面器のないほうに水が動いた~!
ビビった~! ……ンフフっ。ちょっと笑ってしまう。
傘の柄ではムリだな。
イスの上に乗って洗面器を構え、左手の5本指で下から水溜りを支えながらゆっくり動かしたら、なんとか水を洗面器に導くことができた。けっこうデリケートな作業だ。
ラーメン丼半分の量だから簡単に排水できたけど、2杯分を超えたら、たぶん相当スリリング。
その日以降、たまにガムテの補強・張り替えが必要になったりはしたが、早め早めの排水を心がけたおかげで水難に見舞われることはなかった。
FC2ブログ版『馬鹿の手帳』の「東京ドメスティック」というカテゴリーに2009年7月25日から2009年11月28日にかけてアップしたネタ。小説みたいなタイトルだけど、ノンフィクションです。
四畳半に雨が降る
雨が空から降れば、雨水が屋根から天井に落ちる。それが木造アパートの2階だ。
30年住んでいる今のアパートも、もちろん雨漏りする。雨が降ると天井に水滴の落ちる音がして、その部分が濡れてシミになる。雨漏りは通常1か所でおさまるが、長雨が続いたり大降りになったりすると3か所に増え、天井からポタポタと部屋の中に落ちることもある。そこに雨受けの洗面器を置く。相当の大雨でも、洗面器の底にちょっと溜まる程度だが、ネズミやゴキブリのフン、ホコリなどが積もる天井を伝った水なので、ちょっと茶色っぽい。おえ。
今から30年以上前、1978年1月から約3年間住んだ明大前の松原荘の雨漏りは激しかった。
雨が降り始めると、まず天井の2か所くらいから雨音が聞こえてくる。そのうち天井の数か所で音がするようになり、天井のいつもの1か所に水玉がぶら下がる。雨が降り続けばこの水玉は落下するが、雨がやんだり小降りになったりすれば水玉はへばりついただけでポタリとは落ちない。というか、屋根から天井に水滴が落ちた衝撃でへばりついた水玉は霧となり、その下で天井を見上げるオレの顔に降り注ぐわけなんだけど。
大雨の日には、雨漏りの個所が増える。天井の決まった箇所からそのまま落下する雨漏りは、その下に雨受け容器を置けばいいので問題ない。面倒なのは、A地点で天井から顔を出した水滴がその場では落ちず、天井をツツーと伝って数十センチ離れたB地点で床に落下するケースだ。降り始めのうちはAからBへと天井を横に移動したのちに床へと落下していた雨漏りは、雨量が増えるとA―B間の任意の地点からポタポタと落下し始める。オレは、床がびしょびしょになるのがイヤなので、A地点の下からB地点の下まで器を一直線に並べて対応する。
これで問題解決かというと、そうはいかない。夜寝るときにオレの頭を置くベストポジションが、B地点の真下なのだ。
██松原荘ひと口メモ
松原荘の2階には四畳半の部屋が4つある。というか4つしかなく、どの部屋も角部屋で、窓が2面にある。各部屋の出入り口は、建物の中心側にある。アパート全体がなんか傾いていて、特にオレの部屋の場合、窓側が高く出入り口が低くなっている。
松原荘の2階には四畳半の部屋が4つある。というか4つしかなく、どの部屋も角部屋で、窓が2面にある。各部屋の出入り口は、建物の中心側にある。アパート全体がなんか傾いていて、特にオレの部屋の場合、窓側が高く出入り口が低くなっている。
頭を高くして寝たいし、朝日に眠りを邪魔されたくないという条件を考慮すると、どうしてもB地点の下に頭がくるようなポジションで寝ることになる。
頭を低くして寝ると最初は気持ち悪いだろうが、そのうち慣れる。でも、そうなると、必然的に頭は出入り口に近くなる。出入り口の板の間はイコールキッチンスペースであり、ゴキブリの世界。
21世紀の東京において、室内に生息するゴキブリは小型が主流であり、デカくて黒いゴキブリは基本的に屋外に住んでいる。だが30年前の東京のアパートは各種ゴキブリがうごめくゴキブリックパークだった。夜、ラジオを消し電灯も消して寝ようとすると、カサコソカサコソ(移動音)、チュルチュルジュルジュル(すすり音)、バキバキガリガリ(齧り音)と恐怖のサウンドがすぐ近くで鳴り響く。だからB地点に頭を置きたいのだ。
ある晴れた日、来るべき梅雨に備えて、A―B地点の線状の雨漏りに対するゾーンディフェンスを敷くことにした。天井に、四角いゴミ収集袋の四つ角をガムテで固定するってだけのことなんだけどさ。
テキトーに張った天井のゴミ収集袋は、ふんわりした感じだった。夜、寝る前に、「これで、雨の日でも寝るときに頭の向きを変えずに済む」と考え、満足した。
何日かたって、雨が降った。
天井から雨水がゴミ収集袋にポタ……ポタ……ポタ……ポタと落ち始めた。
砕け散った雨水がゴミ収集袋に線状に並んでいるのが透けて見える。
ばっちりだぜい。
ところが。
はじめのうち独立していた雨水たちは、そのうち結びつき、ゴミ収集袋の中心に集まりだした。
時間がたつにつれ、中心の雨水の量が増えていく。
天井に張り付けたときにはフワっとしていたゴミ収集袋が、ピーンと張っている。
こ~わい。
そのうち水の量がラーメン丼の半分くらいになった。たぶん1リットル弱くらい。
このままでは、四つ角に張り付けたガムテがはがれてしまう。
オレはガムテを補強した。
そして、もちろん考えた。水の量が丼1杯分に増える→さらにガムテで補強する→丼2杯分になる→これでもかってほどガムテだらけにする→丼4杯分に……なんてイタチごっこは、いつまでも続かない、ガムテでいくら角を補強したって、いずれ、ゴミ袋から水があふれ出るときがくるだろう、と。
ある程度溜まったら、水を抜かなきゃいけない。水量が少ないうちに、いっぺん試しておくことにした。
水を抜くのは、4辺のうちの、部屋の中央側の1辺。
右手で洗面器を構え、左手に持った傘の柄でゴミ収集袋の真ん中をゆっくり持ち上げる。
うわっ、洗面器のないほうに水が動いた~!
ビビった~! ……ンフフっ。ちょっと笑ってしまう。
傘の柄ではムリだな。
イスの上に乗って洗面器を構え、左手の5本指で下から水溜りを支えながらゆっくり動かしたら、なんとか水を洗面器に導くことができた。けっこうデリケートな作業だ。
ラーメン丼半分の量だから簡単に排水できたけど、2杯分を超えたら、たぶん相当スリリング。
その日以降、たまにガムテの補強・張り替えが必要になったりはしたが、早め早めの排水を心がけたおかげで水難に見舞われることはなかった。
つづく
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