2014年1月7日火曜日

東京ドメスティック日常編 12

共同便所のワナ

 オレの住んでる木造モルタル2階建ては、1階が飲食店で2階がアパートの居住スペース。階段を昇って常時開けっ放しのドアから内部に入ると半畳ほどの三和土たたき(靴を脱ぐところ)があり、正面が共同便所、右が板敷きの廊下になっている。
 アパートの各部屋へは廊下を経由しなければ行けないが、便所へは三和土から直接インできて、もれそうな状態で帰宅したときなんかはとても都合がいい。ただし、この便所のドアは階段の下の通りから丸見えなので、パンツ一丁で部屋から便所に行くには、見られてもいいパンツを着用していなければならない。
 この共同便所のドアの上のほうにはすりガラスのはまった7センチ四方の小窓があり、ドアノブも、一部分が赤くなったり青くなったりするおなじみのタイプなので、ひとめで便所とわかる。素人でもわかる。
 それなのに、間違えるやつがいるのです。オレが便所で用を足しているときに間違えるやつがいるのです。


 実例その1。何をしに来たかわからない女。
 便所で用を足し終えたか終えないかというタイミングで誰かが階段を昇ってくる音が聞こえ、息をひそめてやりすごそうとしたら、
 トントン! とノックの音。
 うわ、なんだよ、ここ便所だぞ! どうしよう、でもここ便所だしな。
 ということで、しかたなく、
 ドンドン! とノックを返す。
 そうしたら、
「え?」
 と、動揺丸出しの女の声。
 そりゃ、誰かの家を訪ねてノックをしたときにノックを返されたら、一瞬ひるむよね。
 そして、
「……あ! 失礼しました」
 住人の部屋だと思ってノックした先が便所だったってことに気づいたんだろう。
 その声の主はすみやかに階段をおりて、2度とこのアパートを訪れることはなかった(たぶん)。なので、その女がセールス関係なのか何かの勧誘関係なのかは謎のままだ。


 実例その2。宅配便のおにいちゃん。
 ダッダッダと力強い足音をさせて階段を昇り、便所の前の三和土から宅配便のおにいちゃんが声を張り上げた。
「吉田さーん! ○○便でーす」
 宅配便のお兄ちゃんは、アパートの2階の、どことは特定できないものの吉田BKの部屋に向かって声をかけている。このときオレは便所にしゃがんでいて、吉田BKの部屋にはいないわけだから、知らんぷりしてもいいはずだ。でも、不在通知に書かれた番号に電話してまた届けてもらうのも面倒だなという気持ちのほうが強くて、勇気をふりしぼった。
「いま便所!」
「あ、どうも!」
 と、なんのためらいもない宅配お兄さんのレスポンス。安心したオレは、日常モードへと移行した。
「なんだったら、そこらへんに置いてってもらえる?」
「じゃあ、ほか回って、また5分後くらいに来ますよ」
「じゃあ、それでお願いします」
「わぁりあしたー!」
 便所のドア1枚をへだてていたって、いろんなコミュニケーションが可能だ。


 実例その3。つい何日か前の9月20日にやってきた非常勤の国家公務員。
 朝食後、和式の共同便所で練り歯磨き粉くらいの固さをリリースし終えたときだった。
 トントン!
 不意をつかれた。リリースに集中しすぎて、階段を昇ってくる音に気づかなかった。でも、長年の習慣というか、条件反射というか、自然にノックを返していた。
 ドンドン! と強めに返していた。
 これで相手は、自分がノックしたのが便所のドアであることを思い知ったろう。
 なのに。
「あのちょっとお伺いしたいんですけど」と、女の人の声。推定年齢40~52歳。
 うそ、なにソレ! オレは激しく動揺した。
「あの、今トイレ中なんすけど」
「あ、失礼しました」
 と、斜め上から物を言って女は黙った。黙ったまま、その場から立ち去る気配がない。
 おいおい、ウソだろ、なんでそこにいるの!
 ドア1枚をへだててしゃがむ男と立ちつくす女。その距離約80センチ。いろんな音を聞かれてしまうじゃないか。
 しようがないのでこちらから切り出した。
「なんですか?」
「あの、このアパートには何人住んでらっしゃるんですか?」
 しゃがんでる者に対する質問として、このセリフはどうなんだろう。
「ひとりです。あとの部屋は、倉庫として使われているみたいです」
 素直に答えるオレもオレだが、この女の人、何者?
「いま国勢調査のご案内で回っていまして」
 このあと何往復か言葉のキャッチボールを経たのちに、
「わかりました、実際に住んでらっしゃるのは吉田さんおひとりなんですね、はい、どうもお手数おかけしました、失礼します」
 そう言って国勢調査員は帰っていった。
 尻丸出しでしゃがんだまま、そこそこ充実した会話をかわしてしまった。なにはともあれ、顔を合わせずに済んでよかった。

 23日、郵便受けを見ると国勢調査の封筒。
「平成22年国勢調査 ~調査にご協力をお願いいたします~」
 と書かれていた。

 オレからもご協力をお願いしておきます。

初出:2010年9月26日

2014年1月6日月曜日

馬鹿をめぐる名言45

トーマス・マン 1
馬鹿にもさまざまな種類の馬鹿があって、利口なのも馬鹿のうちのあまり感心しない一種であるようです。
 小さい子供とか犬とかに対して「利口」って言うぶんには誉め言葉になるけどね。
出典:ドイツの100年以上続く商家(穀物問屋)に生まれたトーマス・マン(1875~1955年)の、教養丸出しの小説『魔の山』(関泰祐・望月市恵訳/岩波文庫)より。
初出:2008年6月30日

2013年12月27日金曜日

ひとり大喜利「ひとり喜利」/「飛ばねぇ豚は〇〇〇」。

次の名言を完成させなさい。「飛ばねぇ豚は〇〇〇」。
█ お題 次の名言を完成させなさい。「飛ばねぇ豚は〇〇〇」。
回答
飛ばねぇ豚は向上心が足りない。
おかしいのは飛んでるほうの豚だぞ!
█ お題 次の名言を完成させなさい。「飛ばねぇ豚は〇〇〇」。
回答
飛ばねぇ豚は、飼いやすい。
飼いにくい豚のほうが面白いかも。
█ お題 次の名言を完成させなさい。「飛ばねぇ豚は〇〇〇」。
回答
飛べない豚ほど可愛い。
なんだよ、できない子供みたいに。
█ お題 次の名言を完成させなさい。「飛ばねぇ豚は〇〇〇」。
回答
「飛ばない豚は“1”のボタンを、インターネット接続に関するお問い合わせは“2”のボタンを押してください」
24時間受け付けOKのところに夜中に電話すると、オペレーターの数が少なくて日中よりもつながりにくいことがあるね。
█ お題 次の名言を完成させなさい。「飛ばねぇ豚は〇〇〇」。
回答
飛ばない豚は二十歳になりました。
かわいい…。じゃ、また次回。
初出:2011年10月4日

2013年12月25日水曜日

ダジャレにひと言39 サンタのおじさん

お題:ダジャレにひと言足して、なんか悲しいダジャレを作ってください。悲しくなくてもいいですし。
探査のおじさん
刑務所で、そう呼ばれていた斎藤さんはサンタのおじさんと違って子供が苦手。金と女が大好きだ。
探査のおじさんもやっぱり煙突から侵入するのかな。

2013年12月23日月曜日

馬鹿をめぐる名言44

カール・クラウス
専門家はおしなべて、おのが専門においては馬鹿であるとのジャン・パウルの言葉を好んで引用する男がいた。彼はおしなべてどの専門にも通じていた。
 広く、深く、馬鹿。
鏡よ 壁の鏡よ 教えておくれ
この世でだれが 一等お馬鹿?
 鏡は当然こう答える。「2番目があなた」。
出典:このちょっとあとで紹介するヴィトゲンシュタインや、ずーっとあとで登場するエルヴィン・シャルガフにも影響を与えたオーストリアの批評家・詩人・作家カール・クラウス(1874~1936年)のアフォリズムを集めた『カール・クラウス著作集5 アフォリズム』(池内紀編訳/法政大学出版局)より。25歳のとき(1899年)に創刊し、死の年まで続けた個人雑誌「ファッケル」(炬火)でクラウスは、大新聞が見て見ぬフリをしてまったく扱わないネタを取り上げて、大胆に告発し容赦なく糾弾した。そのため、多くの敵を作る一方で、ヴァルター・ベンヤミンなど進歩的な知識人からは熱い支持を受けた。だが晩年、ナチスの台頭を糾弾した号の刊行をやめたことで、それまで好意的だった人々からも中傷を受け、間もなくこの世を去った。ちなみにジャン・パウル(1763~1825年)は、一時期ゲーテと肩を並べるほどの人気を誇ったドイツの小説家・詩人。
初出:2008年6月25日

2013年12月21日土曜日

標語流行語キャッチフレーズ発掘 その20

イチジク浣腸の広告コピー(昭和31年/イチジク製薬)
イチジク浣腸と書いてないのは イチジク浣腸ではありません
寸評◎イチジク浣腸と書いてないものは、むやみにお尻に入れないでください。
参考資料:『時代を映したキャッチフレーズ事典』(深川英雄・相沢秀一・伊藤徳三編著/電通/2005年)
初出:2011年1月15日

2013年12月20日金曜日

老いと若さをめぐる名言6

古代ギリシアの詩人たち
若者の心はしなやかにたわむ。
――群小詩人断片・アガトーン・26
「あー、いいたわみだねえ。えーと、隣りの君は、もうちょっとたわんでごらん。そうそう、そんな感じ。おーい、そこの彼! 変な方向にたわんじゃダメじゃないか」
恋する老人ほどみじめなものはあるまい。
――作者不詳断片・306
 何に恋するかによるが。
出典:『ギリシア悲劇全集 13』(逸身喜一郎・戸部順一・川崎義和訳/岩波書店)より。
初出:2008年7月30日